• 登山技術研究会アルペンブルーメ|東京都勤労者山岳連盟に加盟する山岳会|岩登り・沢登り・雪山登山が好きなアルパインクラブ|登山の基本技術を研究し指導者を育成する山の会|東京都練馬区を拠点に活動

湯ノ又沢-赤湯又沢-虎毛沢

9月下旬の飛び石連休を使って、虎毛山塊の懐にある温泉が湧く沢へ。大宮駅で酒肴を買い込み古川駅に着く頃には完全に出来上がった状態のY岸家、一本後のはやぶさでやって来たヨーコさんと合流。陸羽東線を待つ間に降り出した雨が止まず、車窓からは稲妻が見えていたのに全く不安が過らなかったのは、今にして思うと全員が酔っ払いだったからだろう(1つ手前の駅で降りてしまって、慌てて電車を追いかけて乗せてもらったし)。

鳴子御殿湯の駅には「勘七湯」のご主人が、先着していたチーちゃんと一緒に迎えに来てくれていた。車に乗り込む際にリーダーがヨロケて向こう脛を負傷。しかしメンバーは全員酔っていたので不安はなかった。

24時間入れる温泉でコンディションも整い、翌朝5時に窓から外を見てみるとスッキリ晴れた空に真ん丸な月が浮かんでいるではないか。幸運!6時に迎えに来てくれたタクシーで高松岳の登山口へ。

右に登山届を入れるポストが見えている

湯ノ又林道の少し奥まで車が入れるかと思っていたが、林道起点で通行止めになっていた。登山届をポストに入れ、右手に湯ノ又沢を見下ろしながら朝陽の射す森の中を歩き始める。辺りに甘い匂いが漂ってきたので、花の時期でもないのに?と見回すと桂の樹があった。湿潤な地を好む高木で沢胡桃などと同様に渓流の友だが、香りの強いタイミングに合ったのは初めてで嬉しくなった。

人は通れるようになっている

林道は随分こわれていて、何台も重機があった。湯ノ又沢左俣と右俣の出合には土嚢が置かれており入渓する雰囲気ではないので、もう少し道をゆく。休日の朝のことで工事の人は勿論だが、他の登山者もいない。高松岳への登山口で沢仕度をする。

湯ノ又沢右俣はガニ沢とも言うらしい

入渓して直ぐ山ちゃんがブナヒラタケを収穫。ナメ沢なので魚はいないかと思いきや、少し水深のある所に魚影が。早速師弟揃って竿を出すも、釣れず。もしかしたら工事の人も釣りをしていてスレているのかな?

そんなにノンビリもしてられません

川の中を歩くのが遅いので、沢に沿ってついている登山道を所々利用しつつ、ナメが快適な所はヒタヒタと。

標高約830mの二股を目的地寄りの右へ入ると水量が格段に減ったので、少し先から登山道で稜線を目指すことにした。

キノコ王国

初日の荷は重く、間もなく息が上がってしまう。気持ちの良いブナの森の中で一本取っていると、ザワザワと梢を揺らし始めた風が俄に塊になって押し寄せて来たような気がした。と、辺り一面が葉を叩く雨音に包まれてしまった。

傘をさして十数分待ったが止まず、諦めて合羽を着て歩き出すと青空が覗いた。面倒だが暑いのも嫌なので合羽を仕舞って、30分ほど登ると高松岳と虎毛山を結ぶ縦走路に出た。

秋のはじめ

微かな秋色を纏う森の中を、下降に使う支沢の入口を目指して歩き出す。青空が広がったかと思えば湿った風が吹いてきて一雨来るという気紛れな天候だが、気圧計を見るに悪化傾向はなさそう。

そろそろかな、と下降点を探し始めてしばらくすると赤テープがあった。私にとっては初めての沢繋ぎ、沢下降となるので少々緊張する。幸い藪もなく、泥んこの溝の中を歩いてゆくだけだった。滑り易い場所ではリーダーが助けてくれた。

赤湯又沢左俣の上部、沢幅が開けてきたところ
秋の沢旅の友、ダイモンジソウ(とミズ)
トリカブトもたくさん

沢らしくなって暫くすると赤湯又沢の右俣を合わせる。下りて行く程に水量が増えていくんだよなぁ、なんて当たり前のことに内心ハッとしたりしながら進んでゆくと、滝になった。念の為懸垂で降りる。練習不足でモタつくメンバーを苦笑しながら見守るリーダー。

振り返る

右俣の上部にも温泉が湧いているらしく、沢水の濁りが顕著になってきた。仄かに温泉の匂いも。

やがて前方に見えてきたのは、霧…?否、立ちのぼる湯気だ!一同、俄然テンションが上がり、野湯へ向かって一直線。

熱っ!(Photo by 山ちゃん)

沢から一段上がった広い台地の彼方此方から泥色の温泉がボコボコ噴き出している。かなり熱い。地面も温かく、それが快適なのかエンマコオロギがそこいら中を走り回っている。普通は焦げ茶一色の身体に白っぽい部分があって、若干大きめなような。環境の影響?

以前の焚火跡が汚いまま残されているのが目障りだが、それを避けても幕、焚火、風呂のスペースは充分に取れた。ノコギリ隊が薪を調達している間、山ちゃんは湯船を掘り、温度調整のため冷水を引き入れる工事を。

スコップなくてもハンマーがあれば。だって沢屋だもん!

雨模様だったので火のつきが悪く、山ちゃんにお願いする(またかよ?)。ノコギリ隊も得物を団扇に持ち替えて加勢。タープの下では食担のヨーコさんが、具材たっぷりの美味しいカレーとブナヒラタケのお吸い物を作ってくれた。キノコの香り高く旨かったが、お椀にエンマがダイブしてくるのには閉口。

雨の止み間には焚火を囲んでゆっくりと沢の夜を味わう。すぐ傍には山ちゃんが作った湯船があり、地熱地帯だから濡れたまま寝ても構わんだろうと沢装束のまま突入してみた。浅いけど湯加減は最高。どうしても裸で入りたいと主張する約1名は皆が寝静まったあとにコッソリ、本当に裸で入浴したらしい。因みに山ちゃんではない。

酔った勢いで寝てしまおうとタープの下に転がってみたものの、銀マットとエアマットで断熱しなければ寝られないほど熱い。何とか浅い眠りに就くも、マットからはみ出していた踵が火傷しそうで直ぐに目が覚めてしまった。枕元に置いておいたペットボトルのお茶がホットになっている。こりゃ大変、食料を地面から離して保管しなくては…。あれこれ対策してから再び横になったが、風が吹いては一雨来るというパターンが夜じゅう続き、温泉のボコボコ音も相俟ってあまり寝られなかった。ツェルトを張ったお二方はと言うと、結構な数のエンマと夜を共にしなければいけなかったようで。

出発前に足湯 (Photo by ちーちゃん)

寝心地はともかく話の種に一度は来てみたい、面白い幕場だった。名残惜しいが今日は移動距離が長めなので出発しなくては。

出発は8時

少し下流側にも温泉が湧いていた。

クネクネと曲がりくねった沢なのを良いことに、ショートカットを多用して先を急ぐ。暗く平凡だった沢を下るほどに渓相が良くなってくる。

赤い岩が奇麗
アクシバ(ツツジ科)の果実を摘みつつ

赤い岩を穿つように迸る水流に目を奪われる。

回廊のように直角に左へ

見応えのある赤いゴルジュを過ぎて暫くすると、赤湯又沢は滝となって虎毛沢へ落ちてゆく。

虎毛沢の水は緑色

秋のことで濡れたくないので、巻いて虎毛沢へ降り立つ。両岸が狭まって釜の連続になっているのは出合の周辺だけで、少し遡ると広く穏やかな川となる。

岩の色も水の色もガラリと変わった。そして水が冷たい。やはり赤湯又沢の水は温かったのだ。温泉の混じらない虎毛沢の魚影は濃いらしく、山ちゃんが早速竿を出す。

おや?中々釣れない様子だ。竿を出しては引き上げ、どんどん釣り上がって行く。

後続は景色を楽しんだり山葡萄の実を食べたりしながらノンビリと進む。

あっ!あのポーズは…

沢が右に大きくカーブを切った辺りの広い川原で、山ちゃんが待望の一匹目を釣り上げていた。近くに寄って見ると、大きなヤマメ!中々釣れなかったのに得心がいった。

私は山女を見たのは初めて。美しい魚だなぁ

同じ場所でもう15分粘って、次に上げたのは一回り大きな岩魚。いつもはあっと言う間に釣り上げてしまうので、傍目にも凄い集中力で粘りの釣りをする山ちゃんを見るのは始めてだった。

進みませう

そろそろ幕場へ向かわないと時間切れになってしまうので、竿を仕舞って歩き始める。途中、良さそうな釜を目前にリーダーがトイレ休憩のコール。前回(葛根田川)も今回も釣っていないちーちゃんに釣りを促す。

この釜で
釣れたよ!

見事に釣り上げたのは、ちょっと小ぶりの岩魚。これで本日の釣りは終了として、先を急ぐ。

水流で白く磨かれたナメが次々に現れ非常に美しいが、岩エリアを抜けないと幕場の適地はなさそうだ。

やがて、この沢の見物である亀甲模様の沢床が現れる。

両岸に幕営適地がチラホラ。何処に落ち着こうかと迷いながら、白地に赤の亀甲模様の滑床をヒタヒタと歩き回る。

この少し先の左岸に幕を張った

標高710m辺りで、山ちゃんが整地不要の高台を見つけてくれた。既に16時を回っているので各々準備を急ぐ。焚火を囲んで刺身の2色盛りをいただく頃にはすっかり暗くなっていた。初めて食べる山女の刺身は、噛んでみると岩魚のようなプリプリっとした歯応えは無いものの、柔らかな旨みが口の中に広がった。この夜は雨も降らず、秋の沢らしい寒さ対策をして快適に過ごせた。

前の晩と違って、家で寝ていると勘違いするほど寝心地が良かったので早起きは出来ず。岩魚と山女の味噌汁をいただいて、8時半に出発。すぐに美しい釜を持った滝が現れ、右壁を登る。

美しい沢床がまだ続く。今度はクリーム色の岩肌にオレンジ色の線で亀甲模様だ。

渓相のみならず、森も深くて美しい。追良瀬川の時みたいに、ブナの森の懐に抱かれているような気持ちになる。

倒れかかったブナの樹
潜って見上げてみた

最後にちょっとだけ竿を出す。

(Photo by ヨーコさん)

ここの岩魚は、秩父のより少し淡い体色に大きめの水玉模様が可愛いらしい印象。暗い体色にビッシリ細かい水玉が散る秩父の岩魚の方が硬派な感じ。

模様が見えるかな?

リリースした岩魚は、針の痕が痛いらしく一頻り身をよじったあと、滝の方へ後退し、落ち着かなかったのか向きを変えて釜の出口へ移動して流れに乗って去った。

竿を収めて10分ほどで虎毛沢右俣と左俣の出合。虎毛山と麓の赤倉橋を結ぶ登山道を目指して、右俣へ。

出合にて

沢が小ぢんまりとしてきて、追良瀬川の4日目を思い出した。

小滝
苔の上にブナの落葉
キノコ観察
これは美味そう
ニョロニョロ軍団
ぷよぷよ

ここまでずっと緩やかだった傾斜が増してくる。

登ったら神域に迷い込んでしまいそう

高度が上がるにつれ水流が細くなり、代わりにヌメりが酷くなってきた。

黒い所はヌメヌメです

滝が出てきて、山ちゃんリードで草付を巻き上がる。滑り易いためロープを何度も出すので、時間がどんどん過ぎて行ってしまう。

高度を稼がねば…
振り返る

予約してある帰りのタクシーに間に合うか心配になってきた。虎毛の山頂を諦めれば何とかなるだろうと踏んでいたのだが、標高1,000mを超えた辺りで蟻地獄のような25mヌメ滝に出会してしまった。斜度がないので奥行きが分からず突っ込んでしまい、今更巻くことも出来ず、手がかりは引っこ抜けそうな草しかなくて最悪。滑落の恐怖と闘いながら山ちゃんリード、やっと見つけたリスにハーケン3本打ってロープを垂らし、後続はなるべく衝撃を与えないように努めつつ登る(滑っちゃったけど)。かなり時間がかかってしまった。

フキユキノシタ

どうか、もうヌメ滝が出てきませんように、と祈るような気持ちで進んでゆく。もうタクシーには間に合わない。稜線で携帯の電波が繋がると良いのだが。

源頭は苔ワールド

幸いもうロープを出すような所はなく、沢は次第に細くなってゆき遂には水音がしなくなる。唐突に訪れた静けさにたじろいで、立ち止まって耳を澄ます。無音だった。風がないのだ。

最後は沢地形から右に外れてうっすらと藪に覆われた斜面を漕いで登山道へ上がった。時既に16時20分。

藪が濃くなくて良かったっす…

機内モードにしていたスマホを、モバイルの電波を拾えるようにして出発。この時点では完全なる圏外。

虎毛の山頂が赤く染まり始めていた

あまり歩く人がいないらしく荒れ気味の登山道から見渡す北東側の山並みに夕陽が射していた。人工物が一切目に入らない、この深い山の中を遡ってきたのだと思うと感慨深かった。

夕闇が迫っているので靴も履き替えずに下っていくと、スマホの通知音が鳴り始めたのでこれ幸いとタクシー会社に連絡を取った。予定より2時間遅らせてもらって再び降り始める。やがて日が暮れてヘッデンを出す。道の状態は一向に良くならず、草ボウボウな上に泥濘みが酷い。川に出て途切れている所も複数あり、沢靴を履いたままで本当に良かったと思った。暗い中では道の続きを示す目印を見つけるのにも一苦労で、予定より時間がかかってしまう。

疲れもあってパーティ全体のぺースが上がらず、タクシーが帰ってしまっては大変なので可能な範囲で山ちゃんが先行する。ヘッデンの光を反射するものが見えて、車か?と思うと重機だった。表示板によると2008年の岩手宮城内陸地震の震源に近く、まだ復旧の途中とのことで、だから登山道の整備どころでは無かったのだ。入山に使った湯ノ又林道も恐らく同じ理由で壊れていたのだろう。

工事中の広い道を急ぐ。約束の時間は過ぎてしまった。山ちゃんが、後続のペースも上がらないし、諦めてビバークしようと言い出すが、車止めまであと少しなので駄目元で行ってみようと説得。やがてヘッドライトの暖色光が見えた瞬間、安堵のあまりその場でヘタり込みそうになった。タクシーのドライバーさんが心配して照らして待っていてくれたのだ。二人して平謝りする。後続も到着し、重荷を下ろして車に乗せてもらう。

発車して暫くは電波圏外。電波が入ったところでタクシーのドライバーさんは私達を無事乗せたと会社に連絡していた。ドライバーさんだけでなく、配車の人も待たせてしまったと知って非常に申し訳なく思った。続けてこちらも勘七湯さんに電話して、今夜も宿泊させてもらうことになった。

ドライバーさんが途中のコンビニに寄ってくれたので、買い出しも無事完了して勘七湯に到着。玄関前でヨロけながら沢靴を脱いでいると、ご主人が「怪我したの?」と言いながら出てきた。またお世話になります。

ブルーシートを貸してもらって荷物を解いて、温泉に入ってサッパリしたら反省会開始!銘々に好きなものをガッつきながらおだを上げているといつの間にか日付が変わってしまった。

沢から上がって、柔らかい布団にくるまって寝るのは至福の時間。温泉も堪能し、今回はお願いした朝食を部屋でいただいた。ヨーコさんが宿から荷物を送れると教えてくれたので、チェックアウトの時間までノンビリとパッキングなど済ませて帰りは身軽に。宿のご主人が鳴子御殿湯の駅まで送って下さった。本当にお世話になりました。

今回も苦労を一人で背負い込まなくてはいけなかったリーダー山ちゃん、本当にありがとうございました。憧れの沢繋ぎのロングコースを歩き通せたのはリーダーのおかげです。そして、お互いにサポートし合ったメンバーのみんなも、本当にお疲れさまでした!

…古川駅で酒肴を買い込み大宮駅に着く頃には…(以下略)

コメント一覧

マタギを目指して修行中2021年10月18日 21:21 / 返信

文中、"これはうまそう"とあるキノコはナラダケのようですよ…とてもおいしいです。 しかし、沢で2晩も… 文明に毒されている私にはもう無理そうです。いつも感心します。

    ちびのすけ2021年10月19日 11:43 / 返信

    山ちゃんの郷里で「モグラ」と呼ぶ茸で、美味しいので採りたかったのだけれど、帰京する予定だったので諦めちゃった。山ちゃんとこの隣の山の集落では「アマンダレ」と呼んでいて、正式名称を知らなかったのですが、ナラタケなんですね。先生と一緒に秋の山に行きたいな…

雨上がりの夜空2021年10月22日 21:47 / 返信

虎毛沢、来年も行きたいです。綺麗なお椀型の虎毛山の山頂あたりだけが紅葉してて、腫れた眼も全開になりました。山女魚もやまちゃんが釣って、初めて見て、オレンジ色の入り方がとても上品でこれが山女魚なんだと思いました。写真と文章のひとつひとつに、ああだった、こうだったと呟いてます。Y御夫妻とヨーコさん、フォローしてくださりありがとうございました。

雨上がりの夜空2021年10月22日 22:01 / 返信

勘七湯の御主人、下山待っててくださった運転手さん、ありがとうございました

    2021年10月23日 12:26 / 返信

    地形図に書かれていないので無いものと思い込んでいたのだけれど、虎毛山には立派な小屋があったの。山頂周辺は高層湿原が広がっているそうで、次の機会には行ってみたいね。

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