• 登山技術研究会アルペンブルーメ|東京都勤労者山岳連盟に加盟する山岳会|岩登り・沢登り・雪山登山が好きなアルパインクラブ|登山の基本技術を研究し指導者を育成する山の会|東京都練馬区を拠点に活動

独り雪と対話しに(ラッセル訓練)

先週の白毛門ではラッセル訓練と銘打っておきながら、青空とのコントラストが鮮やかな白い峰へと続くトレースに誘い込まれてしまったY岸家。麓に降りてきてからの2時間弱を充てて、急斜面でのスコップを使ったラッセルの練習をして帰ってきた訳なのだが、今週はより実践的な環境を求めて人の少なそうな山に行ってみることにした。

各駅停車の旅も慣れてくれば、乗客の疎らな八高線の対面式座席などはビジネスクラス気分で(ただしリクライニング無しの)ゆったりと朝食をとりながら移動できて快適だ。続く上越線で読書とうたた寝を繰り返しつつふと外を見ると雪景色であった。

今日は山ちゃんが仕事のため、モグラ駅の階段を登りながらバカ話をする相手がいない。スローペースで黙々と登り、待合室で身支度をして出発。

先週より薄雲が多いが風もなく穏やかな晴天。これで目当ての赤沢山にトレースがあったら訓練にならんなぁ。白毛門の駐車場では十数名のグループが今しがた訓練を始めた様子だ。彼等の後をついて行く恰好で、登り始めるポイントとして当たりを付けていた緩斜面へ向かう。

先に到着した彼等が横に広がって斜面を登り始めたのでガイドらしき男性に行く先を尋ねると、下の方であれこれやるだけだと。人目が多くて何やら気恥ずかしいが、ワカンを付けてボチボチ登り始める。

既に9時半だが、まだ日陰の雪は軽い

望んだこととは言え、トレースの無い雪面に一歩踏み込むと膝丈の新雪に取り巻かれて足取りは重くなる。夜が明けてからも降雪があったらしく、闇の中を駆け回っていたであろう獣達の足跡も全く見当たらない。六角形の微細な雪片がふんわりと堆積しているヴァージンスノーを蹴散らしながら登ってゆく。

少し進むと、ステップを切って乗り込む際に前傾すると額が雪面に触れるような傾斜になってきた。ストックで雪を落としながらのラッセルで進む。緩斜面が終わって沢地形に入っているので左の支尾根へと針路をとるが、いざ尾根に近付くと新雪の下に隠された段差が現れ、雪で埋めようにも首の辺りまでありそうな深さなので諦めて迂回すること多数。

こんなに捗らないのでは山頂どころでは無いな、と嘆息。目の前に広がる雪面は滑らかに美しく、そのたおやかな貌の下に落とし穴や固い雪の塊が隠されているのには全く化かされたような心持ちになる。迂回を繰り返すうちに目標の尾根から控え目ながら雪庇が張り出しているのが見えて来て少々焦る。新雪の下に今踏み付けている雪塊はデブリなのかなと思ったり。スコップを出そうか迷ったが、何とかそのまま尾根に上がることが出来た。

上がれば歩き易くなるかと思ったが…

一息ついて現在地を確認すると、標高差100mも登っていないことが判り自虐的な気分になった。周辺はヒノキ主体の樹林で眺望が無い上に、林床にはヒノキの幼木に石楠花のオマケ付き。尾根上を風が吹き抜けるのだろう、木の根や枝、段差が半ば露出しており歩き難い。下手な鉄砲の如くキックステップを繰り返した為かワカンがズレていることに気付いたので、休憩がてらバンドを締め直す。

遅々とした歩みながら高度が上がるにつれ、高木の主役がヒノキからブナに変わってゆく。尾根が少し広くなり、足下の雪の嵩が増してきた。漸く歩き易くなったと喜んだのも束の間、尾根に付き物の段差に行く手を阻まれてしまった。胸の高さのザラメ層に、とうとうスコップを出す羽目に。

スコップ「やっと、トイレ掘り以外に活躍の場が…!」

なるほど山ちゃんに教わった通りの動作になるわ、と独り納得しながら掘り、踏み、進む。豪雪地育ちのベテランと違い、踏込みに必要なスペースに対する掘り具合の判断が甘いらしく、ステップから滑り落ちることが多い。練習を重ねずに無駄のない動きをするのは不可能なので、黙々と繰り返す。時間切れになったら引き返すだけだし。

あのブナの樹のとこ迄で帰ろうかしら

だいぶん疲れてきて、しばしば雪面にスコップを立てては息を整える。お昼も過ぎて少し雪が重くなってきたが、雪の結晶はまだ形態をとどめて陽光を照り返している。曇天だったらもう引き返していたかも知れない。

疲れた…

振り返ると、ヒノキ林では遮られていた視界がいつの間にか開けていて白銀の谷川東壁が美しかった。

これはご褒美

気を良くして再び登り始める。曲線的なフォルムが優しげな白い斜面に誘われて足を踏み込んでゆくと、新雪の下に潜むザラメ層は深くにあったかと思えば浅くなったり、また固さも様々で、まさに一皮剥いてみないと分からない、食えない奴という感じだ。

分かってるけど誘われてしまう

段差が何度も出てくるので御誂え向きとばかりにスコップラッセルの練習に勤しんでいるうちに、気付けば下山を始める予定時刻を過ぎてしまっている。現在地は右側の谷がそろそろ収束し、今いる支尾根と南隣の支尾根とが合わさろうというところ。では合流点まで登って、遮られていた南側を眺めてから帰ることにしよう。

もうひと登り

息を切らしながら登り切った地点の標高は約1,000m。つまり4時間かけて稼いだ標高差はたったの300mだ。非力さに暗然とするが、これが実力ということで。南側には湯檜曽川の下流方面、すぐ下には土合山の家も見えていた。ここで取り敢えず大休止とする。

この先は、またの機会に

後は降りるだけなので、どうせなら折角持ってきたスノーシューを履いてみようと思い立った。ワカンはそれなりに使い慣れてきたので、購入してから2、3度しかまともに使っていないスノーシューの特性を理解したいと思って。急斜面なので不向きかもな、という気はするのだけれど。

履き替えた

上着を一枚羽織って軽く腹拵えをし、ピッケルを手に下山開始。

山スキーが出来たなら楽しかろうな〜

陽当りの良い斜面を下ってみると、ザラメの上の新雪と一緒に滑り落ちてしまう。斜度を軽減しようとトラヴァース気味に降りてみるもイマイチ。ワカンに履き替えてみないので確信は無いが、どうやらスノーシューはワカンより滑りやすいようだ。湿雪表層雪崩を起こしながら降りているようなものだが、雪は今朝とっくに止んでおりザラメ層の上に乗った雪の嵩は然程でないので、まぁ危険はないだろう…。あまりに歩き難いので、斜度が平均的な谷の方を降りることにする。谷の中には背の高いブナが沢山生えているし、大丈夫だろう…。素人判断なので一抹の不安を抱きつつも降りてゆく。

尻餅をつきながらでもやはり下りは速く、あっと言う間に谷の下部まで来てしまった。陽当たりの悪い谷あいの雪はザラメ層もなく軽いままで、スノーシューでバフバフ下ることができた。

ついに パフパフが あらわれた!

やがて眼下に白毛門駐車場の雪原が見えてきた。訓練はもう終わっていて人影は無く、無数の足跡だけが広がっていた。

雪原を横切って、道路に下りる前にスノーシューを脱ぐ。電車の時間まで丁度1時間ほど、良い塩梅だ。駅に着くと意外にも登山者の姿はなく、空いていている待合室でゆったりとパッキングをし直すことが出来た。

先週は、土合駅でも水上駅でもビールは買えないことを知っていて最初からビールとツマミを背負っていた山ちゃんを横目に悔しい思いをしたので、今回はしっかりと持ってきたよ。やはり経験と学習は大事ですな。

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