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2/11-12 阿能川岳

実のところ阿能川岳という山名はおろか、何処にあるのかも知らなかったことを白状しておく。M崎さんが2月の下旬に前夜発日帰りで計画しているのを知って、自分はその日は行けないけれど、ふと興味が湧いて調べてはいたのだった。

2月の3連休、小屋泊まりで八ヶ岳へ行く予定だったのが様々な事情が重なり中止に。そこで前夜発日帰りではなく1泊で阿能川岳に行きませんか、と図々しくも提案してみた。リーダーのM崎さんのご厚意で実現。

往きの八高線の中で過去の気象データをチェック。例年より雪の多い今季の水上だが、先の日曜のドカ雪をピークにここ数日は落ち着いている模様。

上越線に乗り換え、ひたすら食物を胃に詰め込む。すっかり陽が登り、雪を融かし始めている。今回は雪の嵩よりも重さに悩まされそうだ。

(Photo by リーダー)

青空も出ていたが風花が舞う水上駅で、リーダーと山ちゃんは初対面のご挨拶。待合室で共同装備の割り振りを済ませ、タクシーに3人分の荷物を載せて。

人待ち顔の3つのザック (Photo by リーダー)

大宮駅で迷って1本電車を逃したショウくんを乗せて、次の予約があるというタクシーは急いで発車。仏岩ポケットパークに着いたらショウくんのザックに食材を詰め込み、出発前に記念撮影。

駐車場から、これから登る方面を見上げる。除雪車が飛ばした雪が壁になって立ちはだかっているが、少し低いところを山ちゃんがスコップで突破。

トレースの無い緩斜面の雪は落ち着いていて、脛まで潜る程度。程なく我々の入山地点よりもトンネル寄りから来ているトレースに合流できた。途中、右に別れて支尾根を直登してゆくトレースが。一人分で、数日前のものと思われる。阿能川岳方面へはこれが近道だが急斜面で疲れそうなので、やはりトレースのある赤谷越へ向かう。

赤谷越(仏岩峠)。 トレースは左奥へ

トレースは吾妻耶山の方へ消えて行った。

我々の目的地方面にはトレース無し

ここから延々と阿能川岳まで続く尾根を辿ることになる。気合を入れて登り始めるが、雪が重い。ラッセルを交代しながら進む。薄日が射していたのがいつの間にか曇ってしまい、東からの風に小雪がチラつく。予報は晴れだったが、未だ南岸低気圧の影響が残っているのかなぁ。視界は良好で、振り返ると吾妻耶山の台形の山容が良く見えている。少しすると、先ほどの直登していったトレースと合流できた。下山に使ったのかも、とリーダー。

1つ目のピークは1,073m峰。手作りの山名標識が設置されている。地形図には山名の表記が無いのでフーンと思っていると、リーダーが「この標識は間違ってる」と。良く見ると山名の右下に小さな字で1,117mとある。なるほど、これはまだ先のピークに付けるべき標識だ。間違いの元なので、訂正しよう。

この標識は取り外して

標識をザックに収めて歩き出すと、トレースが途切れてしまった。もしかして、ラッセルがしんどくて1つ手前のピークに標識付けて帰っちゃったとか?

1,117m峰に着いたので、標識を手頃な木に結びつける。

正しい場所に設置し直した

次のポイントは、尾根と送電線が交わる標高1,140m弱の地点。ヨシガ沢山から少し降りると、遠く北東方向から向かってくる送電線が見えた。先頭は疲れるなぁと互いにこぼしつつ進んで行くと鉄塔に着いた。

鉄塔の下にいるとチリチリ音がする。鉄塔や電線に雪があたる音なのか、それとも電気が流れる音なのかな?

山毛欅の木肌が優しげ (Photo by リーダー)

重い雪を踏みしめる。足を抜くのも重い。リーダーとショウくんは流石の体力で、全く重さを感じさせない。交代しないのも悪いので私もラッセルするが、ただ待たせているだけみたいで非常に肩身が狭い。ま、休憩にはなると思うけど…

14時を過ぎたら青空が広がってきた。風向きが変わって寒くなったけれど、足の重さも暫し吹っ飛ぶ気持ち良さ。この風が雲を吹き飛ばしてくれたんですね、とショウくん。

伸びやか〜

眺めも良くなり気分爽快だが足取りが重いのは変わらず。15時半を過ぎ、予定地より手前での幕営を検討し始める。尾根が痩せているので適地への到達は16時過ぎ。本来の予定地より標高差にして40m、距離にして500mくらい手前。

「早く働け!」(Photo by リーダー)

フクロウが住めそうな洞のあるミズナラの樹と、何本もの大きめのブナの樹に囲まれた、とても居心地の良い幕場。

みんなで整地してテントを張って、内張りを張って、要らない荷物は掘り下げたテント前の入口脇に置いてブルーシートかけて、何とか暗くなる迄には落ち着くことが出来た。

コンロ2つ体制で、集めた雪で水を作りつつ山ちゃんは鍋を作りつつ、ツマミで呑みながら夜は更けていった。

おでんを作る山ちゃん (Photo by リーダー)

どうやら酔っ払ってくだを巻いたらしくお恥ずかしい限り。重装備だけあって非常に暖かく眠れたが、山ちゃんはエアマットが壊れていたそうでショウくんに半分貸してもらい、結局二人とも寒くて睡眠の質は悪かったようだ。夜中に一度トイレに起きたら晴れていて、夜景が見えていたっけ。沼田方面かな。

朝5時半、テント内の温度 (Photo by リーダー)

5時ちょっと過ぎ、みんなワラワラと起き出して場所を空けて、朝食にする。山ちゃんのチゲ鍋にトッポギで腹拵えは完了。時間が押し気味なのでお茶は止して、出かける支度にかかる。ある程度整えてひと足先にテントから出ると、丁度朝日が登るところだった。

6:45

風もなく穏やかな晴天。暫し支度を忘れて写真を撮る。

来し方
幕場を見守るミズナラの大樹

要らない荷物をテントに置いて、身軽になって出発。私とショウくんの支度が遅いため、山ちゃんとリーダーは先にラッセルを始めることに。

 ショウくん「やっとワカン付け終わった」

幕営地からほんの少し登ると、真北より僅かに西寄りに伸びていた尾根が北北東へ向きを変える地点に雪庇ができている。山ちゃんがスコップで崩している間に後続が追いつく。真剣に見守るリーダー。

スコップの使い方を観察

崩した雪のブロックを踏んじゃかしながら登り上がると、雪庇を右側に見ながらの気持ちの良い尾根歩きになる。

左奥に三岩山

私は気付かずに通り過ぎてしまったのだが、リーダーが天子山の標識を写真に収めてくれていた。

天子山 1399m との表示 (Photo by リーダー)

山と名が付いているが、ピークと言うよりは尾根の別れ道。本来の幕営予定地はこの周辺。関越道谷川岳PA方面へ下りてゆく支尾根と別れ、主脈はまず北北西へ、次いで真北へと方向を変える。ここで再び雪庇崩し。

雪庇を乗り越えて尾根上をゆく。

爽快

遅々とした歩みながらも標高が上がってきており、眺望は素晴らしかった。

遠く上州武尊
眼下に谷川岳PA
遥かに白く浮かび上がる浅間山

眺めに酔いしれつつ進んでゆくと、標高1,460m辺りから尾根が極端に痩せてきた。ここまで広葉樹林だったが、根張りが貧弱でも生きられるヒノキに主役が変わる。地形図では岩マークが出てくる個所だが、雪で覆われているのか岩は見えない。細かいアップダウンが多くなり、しんどそうな雪壁や崖のように落ちているところは左を巻く。密に生えた灌木に足を取られる。石楠花と更紗灯台が主体で、その可憐な花が開く期にはどんなにか美しいだろう。その頃には人間は容易に来られないが。

「三岩」の名と地形図から推測するに三つの内の真ん中の岩(岩場か)に差し掛かる辺りで岩が露出していたので写真に収めた。

両側が切れ落ちているところもあるのでルート取りに気を使いながら慎重に進んでゆくと、三岩山の向こうに阿能川岳も見えてきた。この調子で推移すれば何とか登頂できるかとも思えたが、ここで大きな段差が出現。スコップと立木を支点にロープをセットし、リーダーが懸垂で降りて偵察。

先頭で降りてくれたリーダー

(上の写真はまだ段差の上に居た私が撮ったもので、下の写真は先に降りたリーダーが段差の下から見上げて撮ったものなので、撮影時間が前後しています。)

4mくらいの雪の崖だが、安全に着地できることが分かったので、後続も降りる。

段差を見上げる (Photo by リーダー)
ショウくんが降りているところ (Photo by リーダー)

帰りにも使うつもりでロープの末端を木の枝に結んで再び歩き始めると直ぐに、更に大きな段差が出てきてしまった。ロープは1本しか持ってきていないので、回収しに戻らないといけない。と言うことは…

リーダーが山ちゃんをカッコよく撮ってくれた

4mの崖をスコップでぶっ壊して山ちゃんが階段を作り、歩いて登り降りできるようにしてロープを回収。雪の崖を崩す迫力は圧倒的で、半ば唖然として眺めていたのだが、動画でも撮っておけば良かったなぁと後悔。

次の段差のところへ戻る。太い樹を支点にロープをセットし、今度は山ちゃんが軽く偵察。結果、段差は10m近くありそうな上にハングしていて、豪雪に慣れている人(山ちゃんの地元の同級生みたいな人)がもう一人はいないと降りるのはちょっとリスクが高いという事で、残念ではあるがここで撤退と決した。

無念そうに段差を見下ろすショウくん。

一方、諦めが早いミズヨさんであった (Photo by リーダー)

この岩場さえ通過できれば、その先の三岩山、阿能川岳への距離は近いので確かに惜しい。まだ10時と時間も早い。しかし三岩のうち2つ目でこの状態だから、仮に先に進めたとしても3つ目でまた時間がかかる可能性があり、下手するともう一泊になりかねない。何しろ今季の水上は例年を上回る豪雪なのだし、白旗を掲げて引き返そう。

左奥に阿能川岳、距離は近いのにね…。 (Photo by リーダー)

引き返すと決まったら、折角の眺望に名残を惜しんで撮影タイム。

左に小出俣山、右に俎嵓からの山稜、その中央奥に純白の万太郎山が見えている。

真ん中へんの真っ白いのが万太郎 (Photo by リーダー)

実はこの日、同じ労山の仲間で以前にY岸家が所属していた新潟県の十日町おだまき山の会のパーティが万太郎に登っていたのだ。後で確認したら山頂には10時半頃に着いたそうだ(山スキーで、歩き出しは4時)。さすが豪雪地の山岳会…!

仙ノ倉方面から三国へ流れ落ちる山稜の向こう、遠くの高いのは苗場あたりか? (Photo by リーダー)
浅間を眺めるショウくん
子持山、赤城山 (Photo by リーダー)
右は上州武尊、中央は至仏山 (Photo by リーダー)

ボチボチ降りて行けば、幕営地に戻って丁度お昼という具合になるかな。

岩がちの痩せ尾根を辿る
テント場はもうすぐ

撤退を決めたら気が抜けたのか、足が更に遅くなってしまった。先行するリーダーから、テント見えたよ〜と励ましのコール。ありがとうございます!!

テント場に着いたらワカンを脱いで、腹拵えなどしつつ、デポした荷物をテントから出してパッキングし直し、テントを撤収し、再びワカンを付けて出発。

ワカン付けるのに時間かかるねぇ… (Photo by リーダー)
小動物の足跡 彼方には至仏山が白い

疲れた足を引き摺り、皆さんをお待たせしつつ。それでも下りは早い。昨日のトレースもほぼ残っているし。

もう鉄塔だ (Photo by リーダー)
台形の吾妻耶山 (Photo by リーダー)

復路では赤谷越まで下りず、昨日横目に見たトレースを拝借することに。降り始める前にリーダーがタクシー会社に電話してくれた。少々雪崩が怖いトラヴァースもあったが、ショートカットなので速い。車道が近付いてきた辺りには、思い思いのルート取りで吾妻耶山方面へ向かう足跡が見られた。

トンネル寄りに向かうトレースを辿ると、雪壁を崩す必要のない登山口があった。なんだ、此処から入れば良かったのね。

東屋の屋根がエラいことになっている

広い駐車場には日帰りの車が1台。他の登山者はタクシー利用なのかな。私達のタクシーが来るまでには余裕があるので、ショウくんは山ちゃんのスコップを借りて(自分のは持ってくるのを忘れた)雪壁崩しの練習をしていたが、スコップマスターへの道はかなり遠そうだった。

重いザックを投げ出して、ワカンを外してリラックス。阿能川岳には行けなかったけれど、充実した山行だったと思う。人の入っていない豪雪の山がどういうものなのか、その一端を覗き見た感じ。豪雪に全く動じない山ちゃんにも改めて感心してしまった。

M崎リーダー、素敵な山行をありがとうございました。手の届く距離に見えていた阿能川岳、再挑戦してみたい!けれど…、何しろお待たせし通しでしたから、大変申し訳ありませんでした。(もし再挑戦の機会があれば、真面目に軽量化はいたします…。本当に。)

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