予報が微妙だったので、満を持して大師匠が屋根付きのお食事処を拵えて下さったこの週末。焼き肉で充分に栄養を補給し、夜更かしもせずに充分な睡眠をとって目覚めると、予報からは想像できないほどの青空であった。
テントサイトへ行ってみると、若師匠とS田氏は爽やかな朝の雰囲気に反して完全なる宿酔いの様相である。朝食の素麺はモリモリ食べていたが、テーブルとタープを片付けた後に私達が屋根岩へ向かおうとする頃、もう一眠りしてしまいそうなS田氏を目撃してしまった(彼等がその後どうしたかは、不明)。
今日の特訓の舞台は、屋根岩Ⅱ峰南稜下部。セレクションに合流する手前までの7ピッチのルート1。最終ピッチは11a、その手前も10aと難しいので、行けるところまで行って帰ってこようという魂胆である。
最初のスラブ(1ピッチ目)は簡単。終了点は、立木。
フォローのビレイをしながら、2ピッチ目のスラブを見上げる。
上の方は斜度がキツくて大変そうだが、真ん中へんまでは凹凸もあるし簡単そうに見える。これを読んで下さっている貴方も、そう思いませんか、ねぇ…?なのに、いざ登ってみると下から見た印象と全然違う。真ん中より手前からもう、苦悩ゾーンなのだ。
本当は難しいことが分かっている大師匠から「チョンボ棒」を持たされている。そしてボルト間隔は短いので、難しいけれどチャレンジできるというわけ。
落ちても大事にはならないと分かっていても、ホールドらしいホールドがなく、急なスラブにフリクション頼みで立つのにはとても勇気がいる。試行錯誤し気力を振り絞って一歩。ここでも「トントントン」が大活躍。で、普通の人なら3ピン目にクリップできるところだが、悲しいかな届かず。恐怖心の問題なのだが、ここはもうチョンボ棒を使った。そしてもう一歩。普通のヌンチャクに付け替えて、ホールドに手が届いて、ふぅ~…。
その先が下から見ても急だった部分。目の前で見ると、トライする気も起こらないくらい急だし、手がかり足がかりは非常に微かな凹凸だけ、私のレベルでは無いに等しい。なるほど直登は10aだそうで、あっさり諦めてチョンボ棒でクリップだけして、右から迂回した。
その先の松の木で一度ピッチを切ろうとしたのだけれど、ちょっと余計なコミュニケーションをしてしまって却って混乱し、次のピッチ(3ピッチ目、ほぼ歩き)まで繋げてしまった。登攀が難しい部分があったなら、近くでフォローのビレイをするべきなので、すぐに切れば良かった。以後、気を付けなければ。
続いて4ピッチ目、第一印象はクラック。でも、ルートはクラックというかフレークの左側のスラブ。そうよね、スラブ特訓だもんね…。
これから核心に入ろうというところで、「あ、チョンボ棒渡すの忘れた…」という大師匠の科白ですよ。上を見ると、少し登れば傾斜が落ちる。2ピッチ目の苦悩ゾーンよりは難易度は低いだろう。チョンボ棒を取りに降りなくても…良いか。後日こう書いてみると、大師匠の掌で踊らされている感があるな。
先はともかく、今、乗り込もうとしているところは傾斜がキツいのだ。右のフレークにいつまでも縋っていては、左側のスラブに重心を移して立ち込むことはできないと分かっていても、掴めるものがあると掴んでしまうのが人情というもの。いっそ何もなきゃ、掴まないで済むのに。あぁ悩ましい。
大胆に左足を上げて…2歩目・3歩目の見当はこんな感じ…と懸命に自分を説得する。大師匠の励ましで勇気を奮い立たせて、フレークを軽くツマみつつ右の壁に右足をトンッと。どうにか左足に乗ったら、後は2歩、3歩と続いて傾斜が緩むところへ到達。かなり怖かったので最後はハイハイみたいになってしまった。でも、チョンボ棒なしで、A0もしないで登れて嬉しかった!
これで5.8だってさ。まぁ、フレークあるし、妥当か…。
この後は、小岩峰へ登り上がる。最後にちょこっとクラックがあり、せっかくなので3番のカムを入れた。
大師匠も上がってきて、お昼の大休止とする。風が吹き渡り、とても気持ちが良い。Ⅱ峰の上部を見上げると、セレクションの6ピッチ目を登っている人が見えた。怖そう〜!
お昼休憩を終えたら、ロープを引いてトラヴァースから小さなコルへとひと降り。そこから懸垂で更に降りると、南稜の左側にある支稜の取付。この小さな岩稜に5〜7ピッチ目があるのだ。
5ピッチ目は「PTA」っていう11bのルートがある岩の右端を登る5.9のルート。ボルトが下部に2本あるだけで、右上の写真でマントルを返す辺りでプロテクションの取りようがなく危険なので、トップロープでのトライ。でも初っ端からホールドに全然手が届かないし、ズルして取っても甘いホールドを押さえ込むパワーが足りなくて、全然登れない。諦めてボルトから離れた簡単な所を登っちゃった。残念。
登りきったら正面が6ピッチ目、10a。正面に、ここがルートだよと言わんばかりの不規則なクラックが走っているのだが、壁が薄被りなので私には正面突破は厳しい。左手前にお助けピナクルがあるので、それを最大限利用してトライ。
レイバックで上がろうと思っていたけど、指の掛かりが浅くて。私、指先では頑張れない…。ちょっと体調がイマイチなのもあって、珍しく弱気モードになり「もう諦めたいな〜」とボヤいてみた。一度降ろしてもらったが、大師匠がピナクルに登って2ピン目にクリップ(私は届かなかった)、再トライとなった。
トップロープ状態でかなりのアシスト付きビレイで核心越え。その先は階段状で簡単。11aの最終ピッチには目もくれずに降りてきてしまった。
後は5ピッチ目を懸垂下降、歩き、小さなギャップを懸垂下降、トラヴァース気味に歩いて4ピッチ目の取付きに到着。ここからは登ったルートを懸垂下降。
2ピッチ目のスラブの下に、ガマのおうちがあったので激写。
南稜の取付きに戻ってきたのが15時10分前。のんびり支度をして、帰りがけに水晶スラブに寄り道をして(見ただけ)駐車場に戻ってきた。若師匠の素敵スポーツカーは、もういなかった。
今日も天気に恵まれて、良い練習ができました。スラブ特訓3日目、少しは腕が上がったかな?怖くて蝉になってしまった瑞牆のフェースも、今ならもう少し余裕を持って登れたりするのだろうか…。それは分からないけど、また次に岩と対峙する時に、少しでも進歩が感じられたら嬉しいのです。
大師匠、今日も絶妙なルート選定によるスパルタ特訓、ありがとうございました!
(2024年7月21日実施)