シルバーウィークの三連休(後半)は、のっけからピアノ五重奏曲の三点盛りでヘロヘロ。でも、この秋貴重な晴れ予報は見逃せない!唯一空いた3日目、無理矢理前夜発して小川山へ。
道端に停めたG氏車の傍にツェルトを張って仮眠。夜はそれなりに冷えたので羽毛のシュラフにして正解だった。6時に起床し、軽く朝食を済ませて7時10分頃に出発。3日間ミッチリ小川山合宿中の大師匠パーティにご挨拶をしてから、屋根岩方面へ向かう。
今回のパートナー、沢の会の同期G氏が以前から行きたがっていた「屋根岩3峰南稜レモンルート」の核心ピッチは5.9のワイドクラック。私には厳しいので、そこはフォローで行くつもり。アプローチは、今期2峰や水晶スラブに通っているので取付き付近まで順調だったが、惜しいところで右往左往して20分ほど浪費してしまった。出発から丁度1時間経った8時10分頃、取付に到着。人気ルートの筈なのに誰もいない。
いつものようにゆっくり支度をし、登攀開始は8:54。1ピッチ目と2ピッチ目を私が行って、3ピッチ目で交代するつもり。
1ピッチ目 5.6、疲れているからか朝イチだからか全く調子が出ず。右のクラックにカムを決めつつ、フェースを慎重(鈍重と言うべきか)に登ってゆく。ピッチの中ほどにある1つだけあるボルトに届いた辺りで落ち着いてきた。眺めが非常に良いので、ピッチの途中ではあるが撮影タイム。
写真を撮っていたら、ビレイしているG氏から「寒い」と言われてしまった。ゴメン。こちらは陽向でポカポカなので、つい。再び登り始めるとスリングのかかった立木が現れ、その更に右上に立派なボルトの終了点が見えた。
2ピッチ目 5.7は噂のトラヴァース。ビレイ点から眺めていると確かに怖く思えるのだが、顕著なダイクに1歩踏み出してみると、続くスタンスもあるし細かいホールドもある。右上気味にトラヴァースしアンダーを取ってカムを決めたら、あとは安心。
真上へと向きを変え、灌木に支点を取りながら登ってゆくと3ピッチ目の弓状クラックが見えてくる。下から眺めるとそんなに傾斜がキツくないように見えるのは目の錯覚。取付き近くの立木でセルフビレイを取ってから改めて眺めると、全然緩くなんかない。前半は立ってるし、後半はフレアした斜上クラックなんて得体が知れないよ…
核心ピッチを前に、ひとまず休憩。後続も来ないので、のんびりした雰囲気である。補給を済ませてからスタート。両肘両膝にサポーター、靴はTCプロで気合充分のG氏。しかし迂闊にもアタックザックを背負ったまま挑んでしまった。私も良く分かっていなかったので是正できず。
3ピッチ目 弓状クラック 5.9。前半は縦のクラックで、G氏はフットジャムやハンドジャムを効かせながらカムでプロテクションを取りながら登って行ったが、レイバックで1歩上がろうという辺りで「ダメだ、思い切れない」と言ってギブアップ。しかし、撤退するのにも神経を使った。ビレイしながら慎重にクライムダウン。
さて、どうしよう。クラックは諦めて「南稜レモン」オリジナルの3ピッチ目、右の易しいスラブ(現在このルートの看板になっているクラックは、本来はバリエーションルート)を登ることにしようか。かなり迷ったが、せっかく後続もいないことだし、空身でダメ元でチャレンジしてみることにした。私も靴をインスティンクトからTCプロに履き替えて、クラックグローブも厚手のものを装着。アタックザックの中から5番のカムを出して、4番は2本持って。そう、ハナからカムエイドで登るつもりなのである。美しくワイドを登る技量は未だ備わっていないから仕方ないのだ。スタートは11時半頃だったか。
いくつか残っているG氏が決めたカムも使わせてもらって、出だしはOK。ジャミング+レイバックのところは、右壁スタンスにチョークで目印を付けてから勇気を出して行った。中間に一本だけあるボルトにクリップして、一息つく。
ここから、弓状クラックの名の通りに直上から斜上へと向きが変わる。クラックの内部形状も、前半のフットジャムサイズから、左半身を差して登るフレアしたワイドへと難易度が跳ね上がる。とりあえず奥に4番のカムを決めてから身体を上げようと試みるが、厳しい。やはり私には荷が重かった訳だが、撤退するのも面倒だし困ったなぁ。
クラックの外、左の壁を探ると良いガバがあったので、掴んで一度ワイドクラックの外に出てみた。ガバは浅いクラックの縁だった。フットジャムで少し身体を上げてみたが、浅いクラックは上へゆくほどに更に浅くなり、プロテクションの取りようが無い(勿論ボルトも無い)。危険なので諦めて、再びワイドクラックへと戻った。
仕方がないからこのまま登るしかないな、と決心。ハーネスの後ろ側に下げた物を全部右に移したら、腰を後ろの壁に密着させられるようになったので少し身体をズリ上げて、4番だったか5番だったか忘れたがもう一本カムを決めてスタート。左足はフットジャム、右足ヒール&トウ、左手はハンドジャム…も少しはしたけど、正直なところ全力でカムを掴むのが主、あと右腕アームバーもしたな。右肘が擦り切れてたもんな。それで背中から腰まで後ろの壁に押し付けて、ズリズリ上がる。そして高いところにカムを決めてクリップ、ロープを張ってもらって休む。ランナウトしないように中間サイズのカムもクラックの奥に決めつつ、4番と5番のカムを上にズラしてゆく。
決めたカムをひっ掴んで身体を上げて、その位置を維持し次のカムを決めるためにフットジャム、ハンドジャム、下手クソなヒール&トウやアームバー、ニーバーも必死でやって、クリップしたらすかさず「ロープ張って!」の連続。ビレイヤーG氏よ、すまぬ。恥も外聞もないクライミング。少しずつしか上がれないので物凄く時間がかかる。ようやく出口が近く見えてきた頃、遂に後続パーティが現れた。出口が見えてはいるんだけど、既にボロ雑巾のように疲れているためハカが行かない。力尽きる寸前なので、カムはもうメッタ刺し。右手の甲からは僅かに流血。出口のガバを掴んで身体をクラックから出す際には、気力を振り絞るために吠えてしまった。
立派なボルトの終了点がある狭いテラスに、半ば倒れ込むように到達。登り始めてから優に1時間以上は経っていただろう。ビレイ解除をコールする声は掠れていた。靴紐を緩めて痛む足を解放してからロープアップ。
フォローのG氏は2人分のアタックザックを携えての登攀なので大変そうだが、後続もいるのでがむしゃらに登ってきた。が、残り4分の1くらいの所で「カムが取れない」という悲痛な叫び。小柄な私が空身でクラックの奥に決めた1番のカムに、荷物を背負ったG氏の手が届かなかったのだ。
自分が落ちて怪我をしないように登るのが精一杯で、相手のことを考えられなかったなぁ、申し訳ない。右側のロープは上げられるのでとりあえず登って、荷物を降ろしてから回収に行くしかない。右側のロープ1本で登ってきたG氏が狭いテラスで荷物を降ろしていると、なんと後続パーティのリードの男性が残置カムを取って下さった。なんと親切な、そしてなんと登るのが速いのだろう…!
テラスが狭いので、後続パーティのリード氏のスペースを空けるために私は次のピッチへ。後でG氏が言うのには、私が出口付近でメッタ刺ししたカム(G氏は1番と一緒に回収しようと考えて残置していた)を、玉のような汗をかきながら回収して下さったとのこと。本当にご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした…!
4ピッチ目のスタートは13:22、信じられないくらい時間がかかっている。出だしは狭い溝の中をズリズリ歩いて、抜けたら壁に突き当たるまで岩稜歩き。後続パーティに抜いてもらおうと、途中少し広くなっているところで休憩する。
後続パーティのセカンドの女性は、やはりワイドクラックで苦労した様子であった。大休止になったが、私はまだ放心状態だったので丁度良かった。甘い物を食べて、人心地つけて。最終ピッチの壁のそばまで少し移動し、彼等に先に行ってもらった。
5ピッチ目は左右に2本ルートがあり、左はエスケープルートで右はクラックとなっているが、何故かどちらも5.7。どちらでも良いのだが、もうクラックはお腹いっぱいだし、目の前に左のルートがあるので、それで行こう。
出だし、1段目は細かい凹凸を拾ってゆく短いフェース。1ピン目がちょいと高い。疲れているのにシンドいなぁ。リードを代わってもらおうか、と思ったりもしたが。ここまで来たらオールリードで行っちゃおうぜ!靴は再びインスティンクト、これは細かい立ち込みも出来るしスラブにも強いから大丈夫。
2段目はまろやかな縦クラックが一本入ったスラブ。片足フットジャム、あとはスラブ登りで2ピン目、3ピン目にクリップ。
そのまま真っすぐ登ってゆくと右側にある山頂部から離れてしまうので、向きを変えてトラヴァース。途端に重くなったロープを引き摺り上げながら最後に細かく短いフェースを登ると、終了点のある山頂部に到達。
上の写真のとおり、終了点がある場所よりも高いところがありそうだが、お散歩する元気が残っていないのでここで終了。
あとは懸垂2本で降りるだけなので、ゆっくりと山頂からの眺めを味わった。1本目の懸垂下降は15:45くらいにスタート、30mくらい。2本目は50mロープでは僅かに下まで届かないのだが、取付き右上の岩小屋に降りればOK。
ロープも無事に回収できて、これで本当に安心。気が抜け過ぎて帰り道が分からなくなるかと思ったが、適当に降りてゆくとすぐに見覚えのある風景となり、テクテク歩いて駐車場に戻ることができた。
車を停めた場所に16:45着。ワイドクラックで作った痣と擦り傷が痛むが、ほぼ無事に済んで本当に良かった。相変わらずのノンビリ登攀の私に辛坊強く付き合ってくれたG氏、本当にありがとう!
そして、ベルギービールを2本も飲んでごめんなさいね。
(2024年10月14日実施)