アイス合宿3日目は甲府盆地を暗いうちに出発。芦安温泉郷の最奥に位置する秘湯の1軒宿、桃の木温泉へやって来た。駐車スペースには既にアイスクライマーの車が多く停まっている様子。トリコルネには行かないので良いとして、カモシカルンゼ、マシラルンゼは混んでいるだろうなぁ。今日こそ順番待ちになるだろう。7:44に駐車スペースを出発し、御勅使川沿いの車道(工事関係車以外は車両通行止め)を歩いてゆくと左から上荒井沢が合わさる。上荒井沢沿いの林道への分岐は崩れていて、荒れた斜面に付いた踏み跡を辿ると荒廃した林道に上がることができた。一度渡渉し、あとは緩やかな登り坂でジワジワと標高を上げてゆく。
スタート地点の桃の木温泉は標高850mくらいだった。200mちょっと上げたところで、右にトリコルネ。
トリコルネは、年によっては落ち口が薄かったり氷が無かったりするが、今年はガッチリ繋がっていてとても条件が良いそうだ。大師匠によると、技術的には私でも登れないこともないが、体力と精神力が全く不足しているのでチャレンジ不可。S田氏、ごめんよ。少し見学したら先へ進む。一度大きく下流側に戻るように林道はジグを切って上へと続く。ちょっとウンザリしてきたところで、左にカモシカルンゼF1。
あれ?誰もいない。今朝登った形跡もない。桃の木温泉で、カモシカルンゼに行くと言って先行していったパーティがいたのになぁ。何パーティもいた先行パーティの内、トリコルネに1パーティ。では後の数パーティは皆マシラルンゼに行ったということか。まぁ、昨日に引き続き幸運なことである。
今日も朝イチリードはS田氏から。カモシカルンゼのF1は50mロープでは抜けられないので、核心部を抜けた後で一度ピッチを切る。写真のとおりで短い核心部以外は緩傾斜なのだが、落差のある氷瀑を林道から見上げると迫力がある。それに緩傾斜部分はツルツルしていて意外とビビるのだ(毎回ビビってるんだから、意外でもねぇか)。S田氏は緩傾斜部を退屈そうに登ってゆき、核心部は開脚カッコ良ムーヴでサッと抜けて行った。いつもながら頼もしい。
続いて私。核心部は短いがしっかり垂直である。上部、S田氏は割とランナウトしているなぁ。極端なランナウトではないし、素早く抜けた方が安全とも言えるのだろう。素早さの無い私には無理な芸当であるが。おずおずと登りながら、こりゃリード無理かも…と思ってしまった私は今日も弱気である。
代わって私がリードするのは氷瀑の最上部、ボコボコと大きめの段が重なり傾斜は緩い。やがて左岸の立木に残置支点が見えてきたが、氷からは高さがあり直接登るのは危ないので、そのまま真っすぐ氷を残置支点と同じ高さまで登る。目の前には、黒い岩と氷の白のコントラストが美しいF2。暫し眺めてから、ちょっとヒヤヒヤするトラヴァースで立木へ。セルフを取って基部を見下ろすと、心配そうに見上げる大師匠と後続2人パーティの姿があった。とりあえず支点構築しS田氏へコール。あっと言う間に登ってきたS田氏は懸垂下降の準備をし、一番手で下って行ってくれた。いつもお世話になってばかりである。
続いて降りると、途中でS田氏が回収し忘れたらしい高級スクリューを発見。これで、ちょっと恩返しが出来るな。結局、50mロープで本当にギリギリだったが基部まで降りることが出来た。後続パーティの女性2人に「お待たせしました」と声をかけ、大休止に入る。陽が射すこともあるのだが、陰るととても寒く、手持ちの防寒着を全て着込んで昼寝。
一眠りして目覚めた頃、朝に林道で私達を追い越して行った若者2人パーティがマシラルンゼから戻ってきた。さすが、早いなぁ。大師匠によるとマシラルンゼはカモシカルンゼのように開けておらず、よりルンゼらしい地形で陽が当たらないためとても寒いそうである。混んでる上に寒いのでは、行きたくない。
午後はどうしよう、同じF1を朝と順番を変えて登ろうか。私が自信喪失気味であることを分かっている大師匠は考えた末、私が疲弊していない状態で核心部をリードできるよう、その手前までS田氏にリードしてもらう作戦にした。S田氏には本当にお世話になってばかりで申し訳ないです…。
S田氏のところまで登って、次はリード。今の私が戦わなくてはいけないのは、自分の恐怖心。近い間隔でスクリューを入れて、どうにか捻じ伏せた。後は午前中と同じ。支点のところで、帰ってゆく女性2人パーティに手を振ってご挨拶。フォローで登ってくるS田氏が「いっぱいスクリュー入れてくれたなぁ」とボヤいているのが耳に入ってしまったが、まぁ仕方がない…。
丁度、陽が当たって氷が少し緩んでくれたので、アックスが弾かれなくて良かったと思う。大師匠は「スクリューが多めとは言っても1本多いくらいで、適正範囲」と言って下さった。S田氏とは、そもそも基準が違うかもね。
S田氏の助けと太陽の恵みがあったとは言え、少しだけ自信を取り戻すことが出来たかな。良かった。さて、大師匠の「今日の一本」がまだである。
この氷瀑で「今日の一本」というと、垂直部の端のツララくらいか。でも、それ程そそられないし、其処まで登るのも面倒である。やっぱり、ドラツーならぬ倒木ツーリングでこの一本丸太を登っていただくしかないのでは?と提案したが断られてしまった。残念。そんな訳で今日は大トリ演目は、なし。
クライミングが終わった後は大概、この後何を食べるかしか考えていない(林道だし)。3人とも、気前の良いトンカツ屋「かつはな亭」が大いに気に入っており、2日連続の訪問となった。
3日間ビッチリ計画通りにアイスクライミングが出来るのか、内心では半信半疑だったのだけれど、大師匠の強い意志に触発されて頑張ることができた(全く酒を飲まなかった所為もあるかな)。まだ続くシーズン、課題は山積みなので引き続きモチベーションを保って取り組んでゆこうと思う。大師匠、来月もどうぞ宜しくお願いいたします…!
(2025年2月24日実施)