見ている人を不安にさせるアイスクライマーNo.1とか言って、いつまでも笑って誤魔化してはいられない。そのうち大師匠の胃に穴が空いてしまうかも知れない。そっちの破壊力ではなく、アックスの強さと正確さが欲しい!
そんな訳で、某所でアックス振りに特化した特訓をすることにした。
3月に入り最初の週末を迎えた。4月並みの高温予報が出ているので当初予定の西上州から信州に行き先を変更したが、アックス特訓には相沢奥壁の立派な氷は必要ないので丁度良かったかも。低い氷で充分なのである。群馬ほどでは無いがこちらも高温なのでコンディションが心配だったが、日陰なので充分登れる氷が残っていた。まずはリードしてトップロープを張ってから。
では、改めて。アックスが弱々&ノーコンなのを改善するために、トップロープで登りを大師匠に見ていただく。
大師匠の仰るには、右腕がはまぁまぁ高く上げられているけど、外に開いてしまっている。一方で左腕は、開いていないが脇が締まったまま肘も曲がったままで低い、と。「腕が身体の横に出てしまう人は、左右どちらも出るのが普通だけどねぇ。」と不思議そうだ。
言われたとおりの形をしてみた。右腕は横に開いて上げ、左腕は脇を締めて肘を曲げて低く。え、これって。
「これは完全にヴァイオリンです」と大師匠に告げる。割と青天の霹靂。なかなかに左右非対称な姿勢で奏する楽器を40年以上やってりゃ身体もその形になるのか。そういえば右手で器を持って酒を飲む時に肘が上がるのを指摘されたことがあったが、自分がオッサンぽいからだと思っていた。あれもヴァイオリンの影響だったのか。
原因、傾向が分かれば対策もし易くなるというもの。左腕はまず最大限高く上げてから、打つ場所を見定める。決まったら、肘の位置を固定し、肘から先の動きで打つ。右腕は、見当をつけるために定める肘の位置を、肩幅より開かないよう気を付ける。
あともう一つ、習慣として定着しにくいのが手首のスナップ。クライミングを始めるまでスポーツ経験ゼロの私にとって、「スナップを効かせると良い」と言われてもあまりピンと来ないのが正直なところ。そこは大師匠、新手を考えてきていらした。手を洗ったあと、水を払う時の動きだと。
水を払うようにプラプラっと。肘から先が脱力していて手首の動きが大きい。「試しに、手を握ってやってごらん。」手を握ってプラプラしようとしても、手首が固まってしまい動かない。なるほど、シャフトをギュウギュウと握っていると、円運動で効率良く刺さるようになっているアイスアックスの設計が活かせないってことね。
1)右腕の癖を修正、2)左腕の癖を修正、3)アックスをギュウギュウ握らず柔らかく持って、手を洗った後の水を払うように。
私の場合、アックスについてはこの3点を気を付けることが必要なわけだ。
実際にやってみると、今までよりアックスが力強く氷に入るし、肘で見当をつけ、かつ固定することでノーコンがかなり改善された。誇張ではなくかなりの進歩。
今までだったら怖くてリードできなかった斜度のところを、アックスが決まるので落ち着いてリードすることができるようになった。アックスが決まると、自然と足が高く上がるものなのね。
最後は、トップロープで難しいルートにトライ。
落ち葉が透けて見える細い氷柱状を、壊さずに登れるか。私が先に登ると壊してしまいそうなので、大師匠に先に登っていただいた。私がビレイしているため写真がないのが残念。蹴ったら壊れるので、前爪はギュッと押し付けるだけ。そこに重心を乗せてゆくと爪が氷に食い込んでゆき、滑らずに立つことができるのだ。もちろん、アックスがしっかり決まっていることが前提。
見事にトップアウトした大師匠と交代して、私。
写真左上、細い氷柱状に右ツァッケを食い込ませているように見えるが、実際は大師匠の右ツァッケの痕にホールインワンである。他のところも探したんだけど、アックスとの関係もあって…(言い訳)
でもまぁ、蹴散らかしたりブッ叩いたりしたら細い氷柱状は壊れるから、そうはせずにトップアウトしたのは事実。
シーズン終盤、まだまだ控えている氷瀑に向けて、これまでよりも自信を持って取り組めると思う。大師匠、本当に本当に、ありがとうございます。それにしてもヴァイオリンとはねぇ…。大師匠も私も、大いに驚き面白がったことでした。
(2025年3月1日実施)