9月の4連休は追良瀬川にどっぷり浸かりながら白神岳を目指す計画。連休の前日を移動日とし、4交代で運転。秋田道でかなり雨に降られ、増水具合が気にかかる。
白神岳登山口に車をデポし、予約しておいたタクシーで追良瀬大橋まで送ってもらう。
堰堤の脇を通り過ぎると最初の支沢「マツタノ沢(雪深の沢)」。向こうに本流が見えている。
しばらく川原を歩いたあと、最初の徒渉。経験の少ない私には穏やかに見える川に数歩入ってみて、「バカ、戻れ!」と山ちゃんに怒鳴られる。今回の女子メンバー二人がロープ無しでは確実に流される強さだったのだ。
ロープ徒渉を何度も繰り返す。徒渉が大変そうで高巻きを試みるも女子が草付を登れなくて諦め、結局徒渉したり。後続の若者2人パーティがサッと追い越していったが、我等の進捗は芳しくない。
予定の幕場には行き着けそうになく、不安が高まってきた15時半過ぎに現れた優良物件に飛び付く。広くて平らな河原の少し先には天狗岳ノ沢(大天狗の沢)が滝となって流れ落ちている。
ツェルトとタープを張り終えたら、宴の準備にかかる。ここでは書けないほど(!)沢の夜を堪能し、就寝。日暮れ前から雨が少し降っては止みしていたが、夜中にツェルトから這い出して見上げると、黒々と屹立する崕に縁取られた夜空に星が散っていた。
起きて見ると昨日より水が引いている。草や苔の沈み具合から判断して昨日は30cmくらいの増水だったのが、20cmになった感じ。
わざわざ此処まで来て…と山ちゃんが呟くのが聞こえた。確実に岩魚が棲んでいるであろう深い淵を横目に、私達のために徒渉の準備にかかる。
昨日と同様、何度もロープ徒渉しながらなので行程は捗らない。深く流れの強い淵を高巻き、30mロープでちょっと足りない懸垂で河原に降りると、初日の幕場予定地であった「一の沢(岳の沢)」が見えた。
懸垂の際、かなり大きな石というか小ぶりの岩が、先に降りて川を渡り始めていたS枝さんの近くに落ちてきて、肝を冷やす。
一の沢を過ぎて少し進むと、石滝のゴルジュの入口。水量が少なければへつれるらしいが…
左岸を巻くことに決定。休憩して腹拵えをして、出発。
相変わらず滔々と豊かな流れの中をゆく。
唯一のエスケープルートである四十八滝沢を通過。
2つ目の大きな支沢「二の沢(中の沢)」が右から入る。
左に「ジャグの沢」を分ける。陽光が弱まってきた。時間的に、本日の幕場は「五郎三郎の沢」出合になりそうだ。
幕場が間近であることを示す「五郎三郎の滝」が視界に入ると歓声が上がった。落差25mの見応えのある滝の周辺は赤い岩床になっている。
広川原を見下ろす小さな台地に幕を張ったら、川原の宴会場でそれぞれの役割に分かれて準備開始。山ちゃんは五郎三郎の滝の飛沫を浴びながら残業。連日、黒文字の木に困らないのは標高の低い川ならでは。
宴もたけなわの頃に雨で撤収となり、ツェルトを叩く雨音に翌日への不安を覚えながら就寝。23時過ぎ、あろうことか雷鳴で目が覚める。全員がそれぞれのツェルトの中で同じことを考えていた筈だ。「停滞か…」
雨音、強さを増しているように感じられる沢音、五郎三郎の滝のシューシュー音の三重奏を聴きながら湿ったツェルトで一夜を過ごし、5時頃目が覚めると未だに雨音がしている。外の様子を見る気が起きずに寝袋の中でモゾモゾしていたが、尿意に負けて外に出てみると意外や青空。雨音と思っていたのは枝葉からの雨垂れだったのだ。
増水もなく安堵する。朝食を済ませ、びしょ濡れの幕営装備をザックに詰め込んで出発。直ぐに「三の沢(シワラの沢)」を右に分ける。
モアイ像みたいな滝を過ぎ、右に「滝の沢」、左に「ホノ沢」と分けながら進んでゆく。
今のところ順調に進んでいるが、この後に出てくるゴルジュでどれくらい時間を要するかが問題だ。
我々にしては順調に、11時にはゴルジュを抜けられた。少し進むと「ウズラ石沢(四の沢)」出合。
出合の標高は約460m。因みに入渓点の標高は300mくらいだから、この2日半は沢登りと言うより、ひたすら川を遡ってきたということになる。
ウズラ石沢の幕場は標高610m地点。手前にひとつ嫌らしい滝があるそうなので、今からで行き着けるかどうか微妙なところ。
一番近い良い幕場は本流に少し入ったところにあるのだが、そこに行くためには出合の深い淵を泳がなければいけない。
ラジオも入らず明日の天候がわからない中、少しでも行程を進めた方が良いだろうという結論に達し、本流は諦めウズラ石沢へ。
ゆったりとたゆとう本流に背を向けて一歩支沢に入ると、水の冷たさに驚く。思えば本流の水は温かった。沢幅も狭まり急流となる。普通の沢登りになった感じだ。苔や草が水没しており、水中の石がヌメっているので増水していることが分かる。
最初の二股のあたりに幕場に使えそうなスペースがあったが、あまり良くないのと、まだ13時前だったので、リーダーが迷った末に先へ行くことに決定。
空身でないと登れない小滝でザックピストンしたりして、なかなかに時間がかかる。13時半過ぎ、少し大きめの滝が現れた。これが件のF2らしい。写真では分かり難いが、左の側壁はツルツルで登れず、右壁は登れそうだが嫌らしい。安全策をとって、少し手前の草付きから高巻くことに。
大概は右壁を行くようで、上に巻き道があるのだがあまり使われていない様子だ。巻き道に上がるまでの泥壁を山ちゃんが会心のリード。フィックスを張って貰って後続はアッセンダーで登るが、足下が滑って一苦労…。
標高600mを越えたら高度計とGPSと睨めっこしながら幕場探し。通り過ぎたか…と心配になった16時ちょっと過ぎ、山ちゃんがお誂え向きの幕場を見つけてくれた。
ツェルト3張りに丁度良い広さで、整地も殆ど必要なく寝心地の良い台地の下の河原を宴会場とする。狭い河原が増水で更に狭くなっていて条件の良い場所がなく、奉行役の山ちゃんは皆の冷えきった身体を暖めるため、ひたすら扇ぎ続けてくれた。昨夜までとは打って変わって寒い夜だった。
4日目の朝は快晴。会長が朝食の準備をする間にサッと昨日残業できなかった鬱憤を晴らした山ちゃん。美味しいものをいただいて、さぁ元気に参りましょう。
もう悪いところも無く、あとは読図のみ。
だんだん地形が細かくなってきて、GPS, コンパス, 高度計をひっきりなしに確認する。
電子機器に頼っているけど、10〜20mの誤差があるので次々に出てくる二股は要注意。地形図にも遡行図にもない立派な枝沢があったし、なかなかトリッキー。
疲れで足取りが覚束ないので頻繁に休憩を入れながら登る。12時半過ぎ、とうとう白神岳直下の水場に出た。ここまで来ればもう安心。
水場から数分で登山道に突き当たる。左に少し登ると白神岳山頂。
予想に反してハイカーの姿がなく、全員集合写真が撮れなかったのは残念。重荷を下ろしたい一心で避難小屋へ向かう。
避難小屋に着いたのが13時過ぎ。皆で話し合って、下山することに決める。乾いた靴下と靴に履き替えて出発。
蟶山コースの急な下りは、疲れの溜まった足には辛い。それでも何とか日没前に車デポ地に辿り着いた。
能代のビジネスホテルの部屋を取り、荷物を下ろして近くの居酒屋で打ち上げと反省会をしてから、翌日の長距離移動に備えてゆっくり休んだ。
〜終わりに〜
終始トップでパーティを導いてくれた山ちゃん、本当にありがとうございました。
常に冷静にリーダーを補助し、最後尾で慣れないメンバーを見守って下さったK下さん、本当にありがとうございました。
沢経験が少ない女子メンバーが無事に全行程を終えられたのは、お二人のおかげです。
皆さま、本当にお疲れさまでした!
マタギを目指して修行中2020年9月25日 20:48 /
苦労が多いほど、無事に下山できたときの喜びは一入ですね。 綺麗な写真と素敵なコメント、楽しく見させていただきました。